2025年10月31日金曜日

AX(アックス) 伊坂幸太郎 感想

コメディかと思ったらシリアスな話で、最後はハートフルに終わった。

しかし読み終わってから残ったのは悲しさだった。


殺し屋である主人公の内なる声が、自分にこう語りかける。


ルールを守らず、他者の命を奪ってきた自分が、幸福な家庭を築けるわけがない。いつ崩壊してもおかしくない、といった恐怖心があって、だから、妻を必要以上に恐ろしいものと位置付けることで、自分を戒めている、警告を発しているのではないでしょうか。


心理学でいうところの投影である。

何かにおびえている時、おびやかしているものの正体を見誤ることがある。

それは自分の罪悪感だったり虚栄心だったり、こころの「痛いところ」にあることが多い。

自分でそれを乗り越えることはむずかしい。

まるで呪いのように体と心に絡みついているからである。


主人公は不幸せではなかったが、この呪いを解くことはできなかった。

それがどうしても悲しいと思ってしまう。